貧者の一灯ブログ

マイペースで自己満足のブログを投稿しています。

貧者の一灯・THEライフ















※…
日本に毒を持つクモは少ないが、最強の毒を
持つのがカバキコマチグモである。


このクモは、体長が2センチ程度と小さいが、そ
の毒は毒ヘビやフグよりも強く、世界の猛毒生
物の6番目にランキングされているほどである。


体は小さく、毒も少量なので、幸い日本での死
亡例は報告されていないが、海外では嚙まれて
死亡した例もあるというから、危険であること
に間違いはない。


死亡することは稀(まれ)とはいえ、カバキコ
マチグモに嚙まれると、激痛が走り、腫(は)
れあがる。頭痛や発熱、呼吸困難やショック症
状を起こすこともあるという。


カバキコマチグモに嚙まれる事故は、6月から8
月頃にかけて多くなる。 この時期は、このクモ
の産卵期にあたるので、特に注意が必要なのだ。


カバキコマチグモの巣は目立たない。このクモは、
ふつうのクモのような「蜘蛛(くも)の巣」を張
ることはなく、ススキなどの細長い葉を丸めるよ
うに折り曲げて、筒状の巣を作る。


そして、巣から出て歩き回っては、獲物となる昆
虫を捕らえて食べるのである。


やがて、カバキコマチグモのメスは、卵を育て
るために新たな巣を作る。そして、オスと交尾
を終えたメスは、葉を丸めた筒状の巣の中に100
個程度の卵を産み、巣の中で卵を守るのである。


卵を守っているこの時期は、母グモは警戒心が強
く、気も立っているから、草むらに分け入って、
不用意に巣を壊してしまうと、母グモに攻撃され
る危険性が高い。


カバキコマチグモは、卵を守る虫である。 自然
界の中で、卵や子どもを守り、子育てをする生物
は、じつは少ない。


人間と同じ哺乳(ほにゅう)類や、鳥の仲間の多
くは子育てをする。


しかし、トカゲなどの爬虫(はちゅう)類や、カ
エルなどの両生類、メダカなどの魚類は、一部の
例外を除いて子育てをしない。卵を産んでおしま
いである。


「子どもを育てる」ということは、強い生物だけ
に与えられた特権である。 哺乳類や、鳥類が子
どもを育てるのは、親が子どもを守ることができ
る強さを持っているということなのである。


弱い生物が卵を守ろうとしても、親子もろとも
食べられてしまっては、元も子もない。そのため、
多くの生物は卵を産みっぱなしにせざるをえない
のである。



※…サソリに子育てができる理由


小さな虫であれば、なおさらである。 小さな虫
は、弱い存在である。さまざまな生物が小さな
虫をエサにしている。


そんな虫が卵を守ろうとすれば、よほどの強さ
が必要とされる。 子育てをする虫として知られ
ているものに、サソリがいる。


サソリは、強力な毒針を持っている。この毒針
は獲物を捕らえるためのものであるが、この強
力な武器で、卵や子どもを守ることができる。
そのため、サソリは子育てができるのである。


クモは、他の昆虫をエサにする生き物であり、
虫の世界では、比較的強いため、クモの仲間に
も卵や子どもを守るものがある。


カバキコマチグモは、そんな子育てをするクモ
の一例である。


強力な毒を持つカバキコマチグモのメスは、
「子育てをする」という特権を与えられた、
強い母親なのだ。


カバキコマチグモの母親は、巣を離れてエサを
獲りに出かけることもせず、絶食状態で、じっ
と卵を守り続けるのである。


やがて卵が孵化(ふか)をして、赤ちゃんグモ
が生まれてくる。 母グモにとっては、首を長
くして待ちわびた瞬間だろう。


そして、赤ちゃんグモが誕生したこの日、カバ
キコマチグモの親子には壮絶なドラマが待って
いる。


生まれたばかりの赤ちゃんグモは、最初の脱皮
をする。脱皮を終えると自由に動き回れるよう
になるのである。


歩き回れるようになった赤ちゃんグモが、最初
にすることは何だろう。


そして、このとき母グモは、何をするだろう。


あろうことか、赤ちゃんグモたちは、一斉に
母親に食らいつき始める。そして、母親の体液
を吸い始めるのである。


母親からミルクをもらうわけではない。母親
の体液を吸い始めるのだ。


驚くべきことに、母親は逃げようともせずに、
赤ちゃんグモたちがやるに任せて、体液を吸
わせている。


母グモは、けっして動けないわけではない。
逃げられないわけでもない。


その証拠に、人間が巣を調べようとすると、母
グモは威嚇(いかく)して、敵を追い払おうと
するようすが観察されている。


母グモは、体液を吸われながらも、わが子を守
ろうとするのである。



※…
この日のために母グモは卵を守り続けてきた


この日こそ、母グモにとっては、記念すべき
日であった。そして、この日のために、母グモ
は卵を守り続けてきたのだ。


生まれたばかりの赤ちゃんグモたちの食欲は、
旺盛(おうせい)である。


半日もすれば、母親の体液は子どもたちに吸い
尽くされて、母親はすっかり抜け殻のような
姿になってしまう。


そして、栄養をたっぷり蓄えた子どもたちは、
次々に巣の外へと独り立ちしていくのだ。


カバキコマチグモの赤ちゃんたちが生まれた
日は、母親にとって最期の日となる。


親のない命はない。 すべての命には親がある。
そして、親というものは、子どもに命を託して
いくのだ。 こうして命はつながっていく。


そして、この子どもたちの中のメスも、やがて、
母親のように生き、母親のように死んでいく日
が来るのだろう。


カバキコマチグモの母の姿に、私は、ある女性
の残した短歌を思い出した。





生後3か月で亡くなった次男の徹を含め、4人の子宝
に恵まれた。


『花の原型』 乳がんのために、31歳の若さで2男1
女の子を残して亡くなった中城(なかじょう)
ふみ子(1922─1954)の歌である。


ふみ子最晩年に詠まれた歌のひとつで、「死」
は「詩」を掛けた表現とも言われている


母親というものは、壮絶な存在なのだ。…












現代の日本は、非正規雇用の拡大により、所得
格差が急速に広がっている。



そこにあるのは、いったん貧困のワナに陥ると
抜け出すことが困難な「貧困強制社会」である。



※…
「タイミーさん、今日は1番レジ入ってもらえま
す?」 「タイミーさーん! ちょっとこっち手
伝って」


日雇い仕事で食いつなぐユウジさん(仮名、51
歳)はもうすっかりその呼び名に慣れてしまった。


どの職場でも自分の名前を呼ばれることはほと
んどない。最初は驚いたが、今はただ「私の存
在はAさんでも、Bさんでも、なんでもいいんだ
な」と思うだけだ。


「タイミーさん」とは、「Timee(タイミー)」
というバイトマッチングアプリからくる呼び名
である。


地方都市で暮らすユウジさんがアプリに頼る理
由は「すぐに給料が入るから」。


たしかにアプリの公式サイトには「24時間・365
日いつでも銀行口座へ報酬を振り込むことが可能
です」との旨が書かれている。


バイトが終わり、スマホ画面の「振り込み申請」
をタップすると、10分もたたずにATMから現金を
引き出すことができるという。


「即日振り込み」どころか「即時振り込み」である。


仕事はスーパーのレジ打ちや飲食店での皿洗い、
工場内の作業など。ただユウジさんの経験から
いうと、人間関係はおしなべてすさんでいるという。


「あいさつをしても無視されることがほとんど。
狭い通路をすれ違うときもよけたりしてくれません。


『どうせ単発バイトで来るような落ちぶれた人間』
と、見下されているように感じます。


レジの仕事で誤ってお店控えをお客さまに渡して
してしまったときだけは、『ちゃんとしてよ』
『困るんですよね』と、ここまで言う? と
いうくらいしつこく叱られました。最初に普通
に教えてくれればいいだけなのに……」



※…
「どうせその日限り」で人間関係も希薄


即時振り込みは魅力だが、今年のゴールデンウ
イークには、こんな“事件”もあったという。


その日、所持金は1000円を切っていた。アプリ
から応募した仕事は飲食チェーン店での皿洗い。
殺人的に忙しい夕方から夜にかけての5時間、
汗だくになって洗い場に立ち続けた。


これが終われば5000円が振り込まれるはず。
しかし、コンビニのATMを何度確認しても入金
はなかった。


どうやら銀行のほうが、連休中は対応時間外だ
ったらしい。 帰りの交通費に70円足りなかった。


「バイトが終わった時点ですでにヘロヘロのボ
ロボロ」だったが、やむを得ず電車を途中下車。
そこから6時間以上歩いた。


以前バイク事故で痛めた左脚を引きずりながら、
自宅に着いたときは深夜3時を過ぎていたという。


「あの日はほんとに情けなかった。今思い出し
ても泣けてきます」


話はそれるが、Timeeのような単発バイトアプリ
は、ほかにも「マッハバイト」「バイトル」
「シェアフル」「ショットワークス」など数多
くある。


それぞれが「スキマ時間を利用」「即日払いOK」
「面接なし、履歴書なし」などとアピールして
いる。


学生や副業をしたい人にとってこれらのアプリ
は、さぞ使い勝手がよいだろう。


原則禁止されている日雇い派遣とは違って直接
雇用なので、違法性はないことも知っている。


ただ貧困の現場を取材していると、こうしたア
プリで生計を立てざるを得ない人が増えている
ことが気になっていた。


本人たちの自己責任では片づけられない。容易に
“その日暮らし”を選べる仕組み自体に危うさ
を覚えてしまうのだ。


アプリの利用経験者からは「6時間という約束だ
ったのに1時間で帰された」「集合場所まで行
ったら、『もう定員に達したので今日の仕事は
ない』と言われた」


「制服支給と書いてあったのに、買い取りさせ
られた」といったトラブルもたびたび耳にする。
ほとんどが泣き寝入りしており、一般的な非正
規雇用労働者以上にその立場は弱いのが現状だ。


一部のアプリは労働者と企業がお互いに評価し
合うシステムを売りにしているが、そもそも労
働者個人と企業の力関係は対等ではないという


“常識”が欠落しているようにもみえる。違法
ではないとはいえ、究極の不安定雇用という点
では日雇い派遣と変わらないし、「どうせその
日限り」と思ってしまえば、人間関係も希薄に
なりがちなのではないか。


話をユウジさんのことに戻そう。私が、将来を
考えるとアプリで生計を立てる働き方はよいと
は思えないと指摘すると、それまで穏やかだっ
たユウジさんが打って変わって強い口調で反論
した。


「でも、私が首の皮一枚で生きていられるのは
Timeeのおかげです」。 ユウジさんがせきを切
ったように続ける。



※…
屈辱的な日々に「もう殺してくれ」と願う


「私だって、名前も覚えてもらえないような
仕事がいいだなんて思ってません。でもそれ
が私の命綱なんです。惨めだし、屈辱的です。


だから毎日、神さまにお願いしてますよ。


『頼むからもう殺してくれ』って」 気が付く
と、ユウジさんはタオルで涙をぬぐいながら
話していた。


日雇いバイトの収入は月7万円ほど。家賃は
水道費込みで4万3000円なので、残りの3万円
足らずでやり繰りしなければならない。


洗剤や石鹸、シャンプーはすべて重曹で代用。
夏場はガス会社との契約を解約し、水シャワ
ーとカセットコンロでしのいでいる。


ユウジさんはなぜここまで追い詰められたのか。


ユウジさんの生い立ちは過酷だ。両親は自営業
者だったが、父親は酒浸りで母親とユウジさん
に暴力をふるった。


2人で逃げ出したものの、高校は中退。ユウジ
さんは働き始めたが、17歳のときに母親も出奔
した。


以来、「独りで生きてきました」。


20代のころ、いくつかの会社で正社員として勤
務。その後、熱中していたモトクロスバイクの
レースに出場するために生活の拠点をアメリカ
やカナダに移す。


本格的な移住も考えたが、結婚を機に帰国した。


その後は子どもや女性を対象にした運動指導教
室を主宰する一方で整体師として働いてきた。


施術の評判はすこぶる高く、30代後半で本格的
な店舗を構えてからは、月の売り上げが100万
円を超えたこともあった。


ユウジさんは「従業員も何人か雇いました。何
時間もかけて地方から来てくれる方もいました」
と振り返る。


ユウジさんにとって利用者から「先生に会えて
よかった」「先生でなければダメ」と感謝され
る日々は充実していた。


しかし、皆の期待にこたえたいというがんばり
が仇になる。 早朝から深夜まで働き詰めで、1
日中食事を取らないこともざら。


深夜や未明に押し掛けてくる人にも対応し、店
を持ってからは1日も休日はなかった。結局5年
ほどで過労で倒れ、閉店を余儀なくされる。残
ったのは数百万円の借金だった。


「その後はあれよあれよという間に貧困生活へ
と転がり落ちました」とユウジさん。しばらく
は妻の収入で暮らしたものの、結局離婚。


海外では接客業に就いていたことから、その後
は派遣労働者として全国各地のホテルで住み込
みで働いた。


しかし、観光シーズンのみの細切れ雇用なので
年収は100万円ほどだった。


安定した仕事に就こうと、ホテルでの派遣労働
をやめ、就職活動をしながらアプリによる単発
バイトで食いつなぐ生活に切り替えた。


しかし、収入はさらに減り、暮らしは苦しくな
る一方。


最近になり、相談に訪れた行政から、住まいを
失う恐れのある人に家賃を補助する「住居確保
給付金」を紹介され、ハローワークにも通うよ
うになった。ただ仕事探しは難航しているという。


ユウジさんによると、就職活動では「求人票の
内容と実際の仕事が違うことが多い」という。


ホテルのコンシェルジュと書かれていたのに、
清掃業務に回されそうになったり、なぜか介護
業務をさせられそうになったりしたこともある。


面接で初めて夜勤専門の仕事だと告げられたこと
もあった。夜勤専従は健康リスクを高めるとされる。


待遇との兼ね合いもあろうが、ユウジさんがこ
の手の働き方を避けたいと思うのはやむを得な
いだろう。


「何十件面接を受けても決まらない」と報告す
るユウジさんに対し、行政側の窓口担当者は
「今の収入だと生活保護(水準)より低いから、
ホテルでの住み込み仕事に戻ってはどうか」と
“アドバイス”してきたという。


詐欺同然の求人を放置しながら、オフシーズン
には収入が途絶えるようなホテル派遣に戻れと
いう提案には耳を疑う。


生活保護を持ち出すなら、制度を利用して暮らし
を立て直すよう促すべきだろう。


しかし、生活保護はユウジさん自身が利用したく
ないという。またしても生活保護は恥であるとい


「スティグマ(負の烙印)」が権利の利用を阻
むのか…。


ユウジさんは「生活保護は国民の権利だと頭で
はわかっています。もし以前の私が知人に相談
されたとしたら、恥じる必要はないと言ってい
たはず。


でも、いざ自分がとなるとやっぱり嫌なんです。


この気持ちは言葉では説明できません」と複雑な
心境を打ち明ける。


一方でつい先日は生活保護と同じくらい抵抗の
あったという自己破産の手続きを済ませた。


「(借金を)返したくないわけじゃなかったのに
……。こんな自分が恥ずかしいです」。


自身が貧困から抜け出せない理由について尋ね
ると、ユウジさんはしばらく考えた後、「男性
性の強い社会が問題だと思います」と答えた。
どういう意味か?



※… 先の見えない絶望と希望が去来する


「私が育った家庭では男である父親が不当に権
力を振り回し、家族の人生をめちゃくちゃにした。


今もがんばって働いた報酬と出ていくお金が不
当に釣り合っていないと感じます。


Timeeは一番忙しい時間帯だけ働かされること
も多いので、(給料は)いつも『これだけ?』
って思います。


そもそも最低賃金って誰が、何を基準に決めた
んですか? 


家賃も物価もどうしてこんなに高いままなんです
か?」


ユウジさんは暴君だった父親を、働き手が搾取
されがちな仕組みや、制度や政策を決める側の
人間、問題を放置する行政や政治に重ねている
ようだった。


「弱い立場になったことのない人が権力をふる
っている」とも言っていた。



※…
ユウジさんは取材で話を聞く中で「死ぬ日まで
生きるしかない」「今日で終わりにしたい」と
希死念慮を隠そうとしなかった。


一方で「家族がほしい」とも語っていた。


実は今、ユウジさんには付き合っている女性
がいる。ただ相手もシングルマザーで、ダブル
ワーク、トリプルワークをしながら子どもたち
を育てている。


お互いに今は再婚できる状況ではないが、いつ
か一緒になれればという夢があるという。


先の見えない絶望と、いつか家族をという希望
が去来している。 。…